STORY
枕根の木(まくらねのき)
(仮)絵本
『枕根の木』
1,
ある銀河の ある星に根を張った、一本の木のお話です。
その木は、他の木と何ら変わらず 森の中でひっそりと立っています。
ただ、周りの木と違うことといえば、よく旅人がその根に腰をおろして休むことから
「枕根の木」と森の動物たちは呼んでいました。
ある夜、嵐が吹き荒れました。その木が立っている土地は、一年中冬のようなとても寒い土地です。
嵐で寒さも輪をかけて森を冷たい雨風が叩きました。
空は恐ろしい深い青緑色になり、稲妻が走り、雷の落ちる音が動物たちや木々を、恐怖で青くさせました。
その時、静かに稲妻が走り激しい音とともに森で一番のっぽの木が砕け炎をあげました。
いっそう激しい雨で、炎はしだいに消えました。
2,
一人の狩人がさまよっていました。森は暗く、稲妻が走るときだけ周りを見ることができます。
もう、その狩人の力は、寒さでかじかんだ手とひどく冷えきった体と空腹とで歩けていることも
不思議なほど参っていました。彼は、残りわずかのウイスキーを飲みほしました。また、稲妻が
狩人の目の先を照らしました。そこには枕根の木がありました。
「あそこで休もう。」
枕根の木は彼を可哀想に思い、少しでも守ろうと葉でいっぱい彼の上をおおいました。狩人の
体にあたる雨粒は、減りました。
狩人は思いました。「あの時、この森に逃げ込んだあのキツネを諦めていれば。しかしなぜだろう。
先程までは寒さで体がしびれていたのに、今はちっとも寒くない。こうして木の根に寝ていると、
何かに包みこまれているようだ。」
それでも冷たい雨は狩人の顔や体に降り注ぎました。
狩人に眠気が襲ってきました。ウイスキーを求め内ポケットをさぐった時、ある膨らみに気付き
微笑みました。彼は木の根に体を委ねながら、木に語りかけました。
「私の小さな娘が、出かけに『パパにこの綺麗な真っ赤かのりんご、あげる!』って、りんごみたいなほっ
ぺたをしてもたせてくれたんだよ。・・・可愛らしい笑顔でね。」
なんだか狩人は幸せな気持ちになり、真っ赤かのりんごの匂いを嗅ぎ、一口かじり微笑んだまま眠りに
つきました。
木は、狩人が眠ったので安心しました。それでも葉を彼の上に集め、枝を広げ続けました。木は
狩人の”温もり”を感じている気持ちでいたのでした。
3,
嵐は去り、雨は上がり、朝になりました。
空は、今までに木が見たこともない色をした、それは綺麗な朝焼けでした。
枕根の木は、彼が目を覚ましてこの景色を見て何というのかと楽しみで、いつ目を覚ますのかと待ってい
ました。
しかし、陽が昇りきって空が雲ひとつない青色になっても、小鳥のさえずりでも、カラスが寝ぐらに
帰っても、また夜の闇が訪れても、また陽が昇り、それを幾度繰り返しても、彼は目を覚ましませんでした。
そばには綺麗な真っ赤なりんごが落ちていました。
りんごは美しい色を失わないまま熟れてゆき、そこにあり続けました。
狩人の体には虫たちが集まりはじめ、小さなおだんごになっていきました。枕根の木は最初は自分のかた
わらで眠り続けている彼がいるだけで淋しくありませんでした。けれど、虫たちのおだんごになって
いくのを見てだんだん不安になりました。
そのうち、枕根の木も、何か元気な力が自分にみなぎっているのを感じました。おだんごを食べる虫
たちと一緒で、狩人の体は枕根の木の”ようぶん”になっていたのです。
4,
木は泣きました。
「あなたのぬくもりや、思い出やなんかを奪ってまで私は元気でなどいたくないよ。」
地面から吸い上げる自分の宿命を悲しみました。
木は、わんわん泣きました。
幾月、幾年、泣き続けたでしょう。
「私はこの美しい星の生命を奪わず、私だけでも何も望まずに入られたら。自分のために何も
奪わぬのなら、枯れることも怖くない。あの落雷に打ち砕かれるのは私でありたかった。」
その時、木は上を見上げると、真っ赤なみずみずしく光るりんごがたくさん実っていました。
根元のりんごは、どこにもありませんでした。
5,
鳥たちがうわさ話をしています。
隣の森へもその噂は広がりました。リスやウサギたちも、そのうわさを聞きつけて皆で走ってい
ます。もちろん枕根の木の真っ赤なりんごのうわさです。
青色や、赤色や、黄色の小鳥たち、リス、子鹿、ウサギ、キツネ、ハリネズミ、クマ、数えきれ
ないほどの動物たちが、おいしそうな真っ赤なりんごの実った枕根の木に集まりました。
一羽の小鳥が、わくわくした胸をおさえきれずに促しました。
「リスくん食べてみなよ!」
枕根の木はりんごを差し出して、リスは、ちょっと恥ずかしそうにかじりました。皆、息をのんで言葉
を待ちました。リスは、にっこり
「甘~い!」と言いました。
「何だい?その顔!」皆がざわめきました。
「とっても、甘くて、おいしくって、何か僕の顔、変かい?」
「ううん、とーってもいい顔!」
「でも、初めて見た、顔!」皆が言いました。
「僕、知ってる。」ウサギが言いました。「いつか人間の子どもが、僕を撫でてくれた時にその顔を
したよ。」
「その顔に名前をつけよう!」
皆んなで考えました。
それは ”はぴい” という名の顔。
さて、動物たちはりんごをかじりお互いの顔をみてクスクス
「はぴいになってる!」
楽しいさえずりで、枕根の木の周りは大にぎわいです。木の涙はひっこみ、りんごを食べたかのように
”はぴい”になっていました。あの狩人の寝顔のように。
夜明け前、木はカラスたちの声で目が覚めました。「ねえ、その、・・・嫌われ者の僕たちも、その
りんごを食べていい?」木はどうぞと枝を差し出し”はぴい”の顔したカラスたちを見送って、温かな
気持ちでまた眠りに入りました。
6,
ある日、お日様が高いところにあるころ小鳥たちがざわめき 飛び去っていきました。
「人間がやってきたよ!木こりの親子だ!木こりがやってきた!
きっと小屋をたてる!小屋をたてる!」
意地悪な風が、木々の葉を散らし吹き抜けていきました。
森の中を、大きな犬を連れた割腹のいい人間の男が歩いているのを枕根の木は見ました。そうして、
枕根の木のところで立ち止まり、しげしげ見つめてから木の体を勢いよく叩いて、
「よし、この木にしよう。明日は大仕事だ。」
とつぶやき、犬と一緒に行ってしまいました。
7,
その夜、木はりんご達に語りかけました。
「この森に、木こりの親子がやってきたんだ。きっと、私の体で住む家を建てるんだろう。寒い夜、
雨や風やなんかから私の体が彼らを守るんだろう。
私は”はぴい”が好きだ。明日私が斧で切られても、私の体でその家族達が”はぴい”でいられるのなら
私はただ枯れることよりどんなにか幸せだ。
りんご達、私はお前達にお礼をいうよ。ありがとう。」
りんご達は枕根の木の優しい心を思って、大好きな枕根の木との最後の夜を切なく思って、泣きました。
一つ一つのりんごの涙は止まりません。りんごは泣き続けました。しだいに寒さは増し、りんご達は涙で
氷に包まれてしまいました。
まるで「ガラスのりんご」のようでした。木は、泣き止んだりんごを見上げようとした時、夜空に沢
山の星が光っていて、実っている氷のりんご達が星となっているのを見ました。
「きれいな星空だなあ。」
8,
そうして次の日になりました。
木こりがやって来る前から森の動物たち全員が、木陰から見守っていました。
枝を差し出して枕根の木は言いました。「みんな、私の可愛いりんご達を一つずつとっておくれ。」
動物たちは、悲しげにとりわけました。
二つりんごが木に残りました。
そして幼い子どもを二人連れた、昨日の木こりがやってきました。「おや。この木、おいしそうな
りんごがなってる。ちょうど二つ。不思議だ。りんごの木ではないのになあ。」
小さな男の子と女の子は、嬉しそうに両手で持って走っていきました。そうして枕根の木は実をかじる二
人の兄妹の笑顔の声を聞いたのでした。
「 Happy!! 」
おわり
*私が、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の「蠍の火」しか心が受け付けなくて、どうしようもなかった時に生まれた、素直な気持ちで書いた話です。
近日パペットアニメーションで映像化する予定です。
1,
ある銀河の ある星に根を張った、一本の木のお話です。
その木は、他の木と何ら変わらず 森の中でひっそりと立っています。
ただ、周りの木と違うことといえば、よく旅人がその根に腰をおろして休むことから
「枕根の木」と森の動物たちは呼んでいました。
ある夜、嵐が吹き荒れました。その木が立っている土地は、一年中冬のようなとても寒い土地です。
嵐で寒さも輪をかけて森を冷たい雨風が叩きました。
空は恐ろしい深い青緑色になり、稲妻が走り、雷の落ちる音が動物たちや木々を、恐怖で青くさせました。
その時、静かに稲妻が走り激しい音とともに森で一番のっぽの木が砕け炎をあげました。
いっそう激しい雨で、炎はしだいに消えました。
2,
一人の狩人がさまよっていました。森は暗く、稲妻が走るときだけ周りを見ることができます。
もう、その狩人の力は、寒さでかじかんだ手とひどく冷えきった体と空腹とで歩けていることも
不思議なほど参っていました。彼は、残りわずかのウイスキーを飲みほしました。また、稲妻が
狩人の目の先を照らしました。そこには枕根の木がありました。
「あそこで休もう。」
枕根の木は彼を可哀想に思い、少しでも守ろうと葉でいっぱい彼の上をおおいました。狩人の
体にあたる雨粒は、減りました。
狩人は思いました。「あの時、この森に逃げ込んだあのキツネを諦めていれば。しかしなぜだろう。
先程までは寒さで体がしびれていたのに、今はちっとも寒くない。こうして木の根に寝ていると、
何かに包みこまれているようだ。」
それでも冷たい雨は狩人の顔や体に降り注ぎました。
狩人に眠気が襲ってきました。ウイスキーを求め内ポケットをさぐった時、ある膨らみに気付き
微笑みました。彼は木の根に体を委ねながら、木に語りかけました。
「私の小さな娘が、出かけに『パパにこの綺麗な真っ赤かのりんご、あげる!』って、りんごみたいなほっ
ぺたをしてもたせてくれたんだよ。・・・可愛らしい笑顔でね。」
なんだか狩人は幸せな気持ちになり、真っ赤かのりんごの匂いを嗅ぎ、一口かじり微笑んだまま眠りに
つきました。
木は、狩人が眠ったので安心しました。それでも葉を彼の上に集め、枝を広げ続けました。木は
狩人の”温もり”を感じている気持ちでいたのでした。
3,
嵐は去り、雨は上がり、朝になりました。
空は、今までに木が見たこともない色をした、それは綺麗な朝焼けでした。
枕根の木は、彼が目を覚ましてこの景色を見て何というのかと楽しみで、いつ目を覚ますのかと待ってい
ました。
しかし、陽が昇りきって空が雲ひとつない青色になっても、小鳥のさえずりでも、カラスが寝ぐらに
帰っても、また夜の闇が訪れても、また陽が昇り、それを幾度繰り返しても、彼は目を覚ましませんでした。
そばには綺麗な真っ赤なりんごが落ちていました。
りんごは美しい色を失わないまま熟れてゆき、そこにあり続けました。
狩人の体には虫たちが集まりはじめ、小さなおだんごになっていきました。枕根の木は最初は自分のかた
わらで眠り続けている彼がいるだけで淋しくありませんでした。けれど、虫たちのおだんごになって
いくのを見てだんだん不安になりました。
そのうち、枕根の木も、何か元気な力が自分にみなぎっているのを感じました。おだんごを食べる虫
たちと一緒で、狩人の体は枕根の木の”ようぶん”になっていたのです。
4,
木は泣きました。
「あなたのぬくもりや、思い出やなんかを奪ってまで私は元気でなどいたくないよ。」
地面から吸い上げる自分の宿命を悲しみました。
木は、わんわん泣きました。
幾月、幾年、泣き続けたでしょう。
「私はこの美しい星の生命を奪わず、私だけでも何も望まずに入られたら。自分のために何も
奪わぬのなら、枯れることも怖くない。あの落雷に打ち砕かれるのは私でありたかった。」
その時、木は上を見上げると、真っ赤なみずみずしく光るりんごがたくさん実っていました。
根元のりんごは、どこにもありませんでした。
5,
鳥たちがうわさ話をしています。
隣の森へもその噂は広がりました。リスやウサギたちも、そのうわさを聞きつけて皆で走ってい
ます。もちろん枕根の木の真っ赤なりんごのうわさです。
青色や、赤色や、黄色の小鳥たち、リス、子鹿、ウサギ、キツネ、ハリネズミ、クマ、数えきれ
ないほどの動物たちが、おいしそうな真っ赤なりんごの実った枕根の木に集まりました。
一羽の小鳥が、わくわくした胸をおさえきれずに促しました。
「リスくん食べてみなよ!」
枕根の木はりんごを差し出して、リスは、ちょっと恥ずかしそうにかじりました。皆、息をのんで言葉
を待ちました。リスは、にっこり
「甘~い!」と言いました。
「何だい?その顔!」皆がざわめきました。
「とっても、甘くて、おいしくって、何か僕の顔、変かい?」
「ううん、とーってもいい顔!」
「でも、初めて見た、顔!」皆が言いました。
「僕、知ってる。」ウサギが言いました。「いつか人間の子どもが、僕を撫でてくれた時にその顔を
したよ。」
「その顔に名前をつけよう!」
皆んなで考えました。
それは ”はぴい” という名の顔。
さて、動物たちはりんごをかじりお互いの顔をみてクスクス
「はぴいになってる!」
楽しいさえずりで、枕根の木の周りは大にぎわいです。木の涙はひっこみ、りんごを食べたかのように
”はぴい”になっていました。あの狩人の寝顔のように。
夜明け前、木はカラスたちの声で目が覚めました。「ねえ、その、・・・嫌われ者の僕たちも、その
りんごを食べていい?」木はどうぞと枝を差し出し”はぴい”の顔したカラスたちを見送って、温かな
気持ちでまた眠りに入りました。
6,
ある日、お日様が高いところにあるころ小鳥たちがざわめき 飛び去っていきました。
「人間がやってきたよ!木こりの親子だ!木こりがやってきた!
きっと小屋をたてる!小屋をたてる!」
意地悪な風が、木々の葉を散らし吹き抜けていきました。
森の中を、大きな犬を連れた割腹のいい人間の男が歩いているのを枕根の木は見ました。そうして、
枕根の木のところで立ち止まり、しげしげ見つめてから木の体を勢いよく叩いて、
「よし、この木にしよう。明日は大仕事だ。」
とつぶやき、犬と一緒に行ってしまいました。
7,
その夜、木はりんご達に語りかけました。
「この森に、木こりの親子がやってきたんだ。きっと、私の体で住む家を建てるんだろう。寒い夜、
雨や風やなんかから私の体が彼らを守るんだろう。
私は”はぴい”が好きだ。明日私が斧で切られても、私の体でその家族達が”はぴい”でいられるのなら
私はただ枯れることよりどんなにか幸せだ。
りんご達、私はお前達にお礼をいうよ。ありがとう。」
りんご達は枕根の木の優しい心を思って、大好きな枕根の木との最後の夜を切なく思って、泣きました。
一つ一つのりんごの涙は止まりません。りんごは泣き続けました。しだいに寒さは増し、りんご達は涙で
氷に包まれてしまいました。
まるで「ガラスのりんご」のようでした。木は、泣き止んだりんごを見上げようとした時、夜空に沢
山の星が光っていて、実っている氷のりんご達が星となっているのを見ました。
「きれいな星空だなあ。」
8,
そうして次の日になりました。
木こりがやって来る前から森の動物たち全員が、木陰から見守っていました。
枝を差し出して枕根の木は言いました。「みんな、私の可愛いりんご達を一つずつとっておくれ。」
動物たちは、悲しげにとりわけました。
二つりんごが木に残りました。
そして幼い子どもを二人連れた、昨日の木こりがやってきました。「おや。この木、おいしそうな
りんごがなってる。ちょうど二つ。不思議だ。りんごの木ではないのになあ。」
小さな男の子と女の子は、嬉しそうに両手で持って走っていきました。そうして枕根の木は実をかじる二
人の兄妹の笑顔の声を聞いたのでした。
「 Happy!! 」
おわり
*私が、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』の「蠍の火」しか心が受け付けなくて、どうしようもなかった時に生まれた、素直な気持ちで書いた話です。
近日パペットアニメーションで映像化する予定です。
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プロフィール/オトナコドモ舎 主宰

- クロカワミツヨ/黒川光世 映像作家・絵本作家
- 8mm Filmに限っては自家現像をしています。
経歴
代表作・「陽餌」16mm
・「紐理論」16mm、ビデオ
・「泡姫のおとしもの」8mm 調布映画祭入選作品
、その他。ミュージックビデオも手がける。
2011年 桜台poolにて、個展「MITSUYO OHYA MUSEUM」を開催。
2023年 出版社「オトナコドモ舎」を設立。
同年、絵本「ひとしずく」を11月に出版。
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