STORY


molly

どんな顔してどんな人が言ったのかしら。
自ら命を断つ事がいけないなんて。

追い詰められて、心が何を感じる事にもつかれたことがない人に決まってるわ。
mollyは酷く冷たい水の中で、終わる時がくるのを待っていた。
もうじき、きっとすぐつらくもなくなるわ
そう自分に言い聞かせて、ただ凍る程の水の中にいた。
mollyは、虐めにあっていた。
虐めがこんなにつらいなんて 体が感じる冷たい水の厳しさより、心がこんなになってしまう苦しみの方が勝ってしまうなんて、今まで読んだ物語の、どこにも書いてなかったわ。
私を呼ぶ声がする気がする。いいえ、私を助ける人なんていやしない。
こんなになってまで、助かりたいわけがない。期待なんてしているはずがないのに、聞こえてくる。
凍った塊になった私の体を、優しいものがふわっと包んだ。
『何だろう?』
mollyは気持ちよくて、身を委ねてみた。
寒さが刺す痛みが段々と柔らいでくる。
そうだ これ、温もりっていうんだっけ…
ふと見ると、女性が着ていた上着をかけてくれている。
宇宙の色の様な天鵞絨の 深い深い静かな瞳で、その人はmollyを覗きこんでいた。
その眼には「偽善」というものが全くないとmollyはわかった。
mollyは、このままこの時間の中に居たい、って思った。
女性は、お家へお帰り と言った。
mollyは、そうしなければいけないと思って家に帰った。

mollyは絵を描いている。
学校は辞めて、毎日絵を描いている。

自分の眼で見たもの、映したもの残したくて。

あの女性のしてくれたこと、瞳を、コートの感触を、絵にしたくて。
特別なコートを躊躇なく自分にかけてくれたのだと分かる。

涙がわけもなく出てしょうがなくなる。
悲しい涙ではない。

コートは大切にしまってある。彼女にとってお守りになっていた。
必ず返したいとmollyは思う。
もう少し、持っていたいと思い 眺めてうっとりする。 自分には華々しいし、普段着ることはなく 寒い夜にそっと着てみる。
そして空を見上げたりする。
白い息を吐いてみたりする。
苦しみや痛みは忘れるけど、あたたかかった事は思い出してあたたかい気持ちになるなあ、なんて
mollyは思ったりする。そしてそれを絵にする。

彼女はもう少し生きてみることにした。

mollyには だらしのない母親がいた。実の父親の記憶はなかった。
mollyは母親とは思っていなかったから、maylaと呼んでいた。
maylaはmollyが絵を描いている事を面白半分に見ていて、以前から勝手に机の引き出しを開けて日記を読んでからかったりしていたが、また絵をからかい、黙ってスケッチブックを捨てたりしていた。
そしてmaylaは、mollyが大事に隠していたあのコートも見つけてしまい、競売にかけてしまったのだ。
高笑いのmaylaを押しのけ、mollyは家を飛び出した。
コートは高値でフランス人に落札されてしまった。
mollyは落胆し、まだ子どものmollyだったが なんとか売却した荷物を持った落札者を見つけることができて、荷物を運び込んだフランス行きの列車までこぎつけた。
荷台車に必死で紛れこみ身を潜めた。
あのコートを取り返すために。
それにしてもこんな大胆な事をしたのは初めてだった。自分の鼓動の速さを感じていた。
「maylaなんてどうにでもなればいい。あの人に教えられたことなんて、ほとんどがくだらない考え方とクズのような汚れた言葉だ。
そのくせ私を所有物のように扱い何をしてもいいと思いこんで。私はずっと早く大人になって家を出たかった。今、その時がきたんだ。」
mollyはコートを運ぶ荷物に意識を集中させて、落札したフランス人が家に辿り着くの見た。

その晩mollyは明日訪ねる家のすぐ近くの暗がりの片隅で野良猫のように眠った。

9/13

プロフィール/オトナコドモ舎 主宰

プロフィール画像
クロカワミツヨ/黒川光世   映像作家・絵本作家
8mm Filmに限っては自家現像をしています。
経歴
代表作・「陽餌」16mm
・「紐理論」16mm、ビデオ
・「泡姫のおとしもの」8mm 調布映画祭入選作品 
、その他。ミュージックビデオも手がける。
2011年 桜台poolにて、個展「MITSUYO OHYA MUSEUM」を開催。
2023年 出版社「オトナコドモ舎」を設立。
 同年、絵本「ひとしずく」を11月に出版。

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